■レポート、雑感リスト  
おかしな光景
 

こんにちは

昨日、ベツレヘムの生誕教会が39日間の封鎖を解かれました。
CNNは、その様子をずっとライブで中継していました。

そして中に入っている人々を「武装勢力」・・・と何度も強調し「爆弾テロ」に備えて2基の金属探知器(空港にあるものと同じ)の手前に大きく作られたバリケード、その手前にイスラエル兵は離れて待機、中から出てくるパレスチナ人を誘導するのは兵士ではなく、カソリック系の清教徒・・・と
大変な警戒ぶりでした。

私は、中に入っている人々はほとんどがパレスチナ警察と市民、それから盾として自ら入った海外からの平和活動家と聞いていました。

中にいた人々からのメッセージも、メールを通して読みました。

4月のベツレヘムの占領下の悲惨な状況は、そこにいた清末さんの話しを聞いてもよくわかります。

楽器を鳴らして平和行進をしている外国人たちに対しても撃ってくる、どうにも逃げ場のない状況の中で、生誕教会の中だけが唯一残された安全地帯だったから、命からがら人々が逃げ込んだのです。
他に選択はありません。

それを武装勢力と人質・・と発表しているイスラエル側の主張をそのまま報道するマスコミもどうかと思いますが、おかしかったのはここからです。

ものものしい空気が漂っていたのは生誕教会の外側に待機するイスラエル兵と、イスラエルの主張を本気にしているマスコミ関係者のみ。

叫んだり、非難しながら出てくる激しい「テロリスト」たちの登場を息を呑んで待つ・・・という空気ができていました。

ところが、そんな厳重な警戒体制のもと、中から出てきたパレスチナ人達の、ニコニコひょいひょいなんとも穏やかな様子に、みんな拍子抜けしてしまったのでした。

CNNのレポーターが、「驚くほどスムーズです」とか、「信じられないほど順調です」
「白い歯を見せて笑っています。」と、いったい何回口にしたでしょう。
あんぐり・・・という感じです。

パレスチナ人を知っている人たちにとったら、この状況は何の不思議もない事だと思います。けれども、たいていの人は本当にパレスチナ人=テロリスト=野蛮ぐらいに思っていたのかもしれません。

出てくるパレスチナ人を怖がって遠ざかっていたイスラエル兵達も、段々近づいてきました。

大きなバリケード、金属探知器、重装備のイスラエル兵の前に立つ、39日間の飢えと乾きの後にもかかわらずのんびりした雰囲気の手ぶら丸腰のニコニコパレスチナ人。
(自分の手荷物を入れた、ビニール袋は持っていましたが。)

それをなお「最重要テロリストとして国外追放」と言葉が添えられて報道は続く。

――――何とも滑稽な光景でした。
歴史的に滑稽な光景です。

けれどもそのことをどのくらいマスコミは冷静に受け止めていたでしょうか?
先入観から解かれず、戸惑いを隠すのが精一杯だったと思われます。

さらに日本の報道はその切り売りで、まったく各局の分析は伺えませんでした。

とってもおかしなことなのに。

――――中国で今回起きた、領事館に逃げ込む亡命者を、きちんと保護するどころか中国側の警察官に帽子を拾ってあげたり、ポケットに手を入れて女の人に「落ち着いて下さい」と声をかけ(!?)たり、警察を中に誘導してしまった日本領事の対応を見ても、今目の前で起きている事へのとっさの判断力や、そこに逃げ込んでいる人の必死の気持ちを理解する想像力や領事館の果たすべき勤めや立場や危機感がまったくないぼやけた感性であることは、わかっているのですが。

とっても恥ずかしかった。

同じ時、他の国の領事館は、駆け込む亡命者を無事保護しています。――――


さて、ベツレヘムに戻ります。
私はこれを見て一つ思い違っていた事を知りました。

私はイスラエル兵達も、この茶番劇の演技者なのかと思っていたのです。

けれども、イスラエル兵達も、中にいる人々が本当にテロリスト達だと思い込んで、本気で信じていた事を、この映像を見て初めて知りました。
だって本当に怖がっているのですもの。

前線に立っている兵士達をそう思い込ませ、事実を捻じ曲げているのはもっと別の人々なのかもしれません。

そして前から言われていましたが、重要人物を追放またはガザに追いやりウエストバンクから陥落させる事を目的とするイスラエル側は、今回も中にいた人々のほとんどを犯罪者扱いし、国外追放またはガザへの流刑を命じました。

出てきた瞬間からバスに乗り込むまでの間、一目だけ、ようやく顔を見る事が出来た家族は、バスでそのまま護送される彼らの姿を見て、泣いていました。
もう次いつ会えるかわかりません。
つぶされる思いで解放を待ちわびた彼女たちは、また働き手を失い、息子を失い、夫を失い、父親を失ったのです。

自分達が仕掛けても、ただでは終わらせない長年の政策が、今も続いている不公平な終わり方でした。


森沢典子
 
 
midi@par.odn.co.jp