■レポート、雑感リスト  
プロミスと大人達
 

こんばんは

月が綺麗な季節ですね。
いつもながら、BCCで長文失礼します。
必要のない方はすぐにカットしてください。


もう二週間以上前ですが、パレスチナから帰って来てすぐの9月初め、一人で映画「プロミス」を観に行きました。

ユダヤ人とパレスチナ人の子ども達を追ったドキュメンタリーフィルムです。

制作を手がけた3人の監督が、距離的には近くに住みながら様々に異なる状況に置かれる子ども達と、ゆっくり信頼関係をつくり、それぞれの場所にちゃんと入り、子ども達の姿や言葉を引き出していくのには、子どもの仕事にかかわっていた私も感心してしまいました。

こんな風に子どものドキュメンタリーが作れるんだと、びっくりしました。

そしてイスラエルの子どもと、パレスチナの子どもによる対話を試みていきます。

その一つ一つの場面で、子ども達の心が揺れたり動いたりするたびに私は胸がいっぱいになり、涙が止まりませんでした。

でも、胸の奥につっかえが残りました。

いつまでも消えなくて、それが何故なのか見つけられずにいました。

フォトジャーナリストの広河隆一さんにその映画の感想を求められたとき「問題の本質にちゃんと触れてはいないけれど、この映画があるということだけでも、よかった」と言いました。

イスラエル人の子ども達が、パレスチナ自治区へ行ってみようと決心したこと、それを受け入れもてなした親達がいたこと、みんなが一緒に遊んだり、踊ったり、笑ったりしている姿がどうしようもなく嬉しかったからです。

その瞬間があったことだけで、個人の感情として涙が止まらなかったからでした。

また、この問題にまったく関心がなかったり、わかりにくくて困っている人にとっても、本当にいい入り口になる映画だなあと思ったからでした。

でも、広河さんは、顔を真っ赤にして怒り始めました。

その理由を聞いて、私の胸のつっかえがすーっとおさまり、はっとして、焦点を戻すことができました。

しっかりしなくては、問題の本質をそっと横によせて目の前のことで満足してしまったり、何かを甘受してしまう自分の弱さに気づいたからでした。

占領は誰がしているのか。

あの、パレスチナ人の子ども達の失望や涙イスラエル人の子ども達のあきらめや、問題の本質に向かおうと決心した双子の兄弟の一人が見せた、苦悩の表情。

その根本に、占領があるのだということ。

占領という状態を受け入れたまま、対話を試みる矛盾。
それを否定することはあたかも「対話」を否定しているように見られがちです。

そんな和平に抵抗してきたパレスチナ人達の否定が、対話そのものへの拒否に受け取られてきました。

こうした錯覚の中でおかしな「公平」を私たちが押し付けてしまいやすいのは私たちが強者の側にいるからだったのです。

それはまるで綱引きで最初から綱の真ん中をグイとこちらに寄せて圧倒的な人数差でルールを押し付け
「さあ、勝負しましょう。」と言っているようなものです。
変な例えで申し訳ないのですが。


この事について、広河さんが最近のコラムで端的に、見事に語っていらっしゃいます。

どうしていつも意識をしっかり持って本質のところをきっちり語ることが出来るのだろうと頭が下がってしまいます。

それと同時に、そういうことをちゃんと語ってくれる大人がまわりにいることに、感謝の気持ちや安定した気持ちになれ、小さな希望を見出すことができます。

プロミスの映画の中の子ども達も、失望をしていきます。

でも制作の過程で、あの時かかわった大人達の存在や一瞬だけど心に宿った確かな実感は
子ども達の信頼感や希望をすべては奪わないでしょう。

そして私たちは、うわべだけの「平和」や「正義」を掲げるのでなく、問題の本質を見出し、目をそらさず口に出して語っていくことでしか、その信頼や希望をつないでいけないことをこのコラムが教えてくれます。


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■ HIRO COLUMN 文:広河 隆一
プロミス  Posted: 9/14/2002

 【ベイルート 14 日】

 「アメリカの正義」が、新たに多くの人々を殺そうとしています。

 この動きを黙って見逃したら、今後、子どもたちに語る言葉はなくなるでしょう。

 たとえば「正しいと思うことをしなさい」「人を傷つけてはいけません」「盗んではいけません」「人を殺すことは最大の悪です」など。

 この強者の狂気の時代に、見て欲しい映画を紹介します。

 映画「プロミス」。これは BOX 東中野で早朝上映されています。ユダヤ人とパレスチナ人の子どもたちを追ったドキュメンタリーです。

 激しい対立の時代に生まれ育った子どもたちは、周辺で近しい人間が殺されたり、爆発で命を落とす恐怖にさらされています。しかし子どもたちは対話と理解がないことには何も始まらないと考え、相手に会うことを決意しました。その過程の逡巡、不安が見事に記録されています。

 そしてユダヤ人の子どもたちは、検問所を越えてディヘイシャ難民キャンプのパレスチナ人の子どもたちを訪ねて行くのです。

 そのときの子どもたちを見て、私は胸が詰まりました。パレスチナ人とユダヤ人の子どもが、いっしょに遊ぶ笑顔を見ているだけで、涙が止まらなくなりました。

 対立が対話によってしか解決できないということを、この映画は示そうとしています。対話からしか何も始まらないことを教えてくれます。

 今年 6 月、NHK BS1 の番組で、私はイスラエルのネベ・シャロームの実験について紹介しました。ここはユダヤ人とパレスチナ人の子どもが半数ずつ学ぶ学校です。ユダヤ人はアラビア語を、パレスチナ人はヘブライ語を学びます。そして子どもたちは、近くのパレスチナ村の廃墟に出かけて、なぜそこにパレスチナの村の跡が残っているのか、勉強するのです。そして子どもたちは、教室で話し合い以外の方法では、お互いの理解は生まれないことを、徹底して教えられます。

 ユダヤ人とパレスチナ人の対話の試みは、様々なところでありました。むかし「平和の船」に双方から同数の人々が乗船し、船上で何日も過ごす中から、対話と理解を求める試みもなされました。

 私が代表をしていた「パレスチナ・ユダヤ人問題研究会」は、両者の代表 2 人ずつをまねいて、日本の各地で「ユダヤ人とパレスチナ人の共存のためのシンポジウム」を開催した事があります。当時の朝日ジャーナルが詳しく紹介しています。

 「平和の種」という運動もありました。

 パレスチナ人とユダヤ人の子どもたちがアメリカでキャンプを過ごしました。最初はぎすぎすした雰囲気の中で相手を批判するばかりだった子どもたちは、やがて少しずつ話し合いを始めます。彼らは、問題の解決は唯一、話し合いによってもたらされる、ということを学びはじめます。

 自分の生活の場所に戻った子どもたちは、やがてお互いが住んでいる所を訪ね合い始めます。ユダヤ人の子どもはパレスチナ難民キャンプを、そしてパレスチナ人の子どもはユダヤ人の街を。

 ここまでの話は外国で番組に作られ、それはNHK でも放映されました。

 こうしたことはすべて、和平への期待の中で行われた試みでした。多くの可能性が語られ、夢が語られました。そしてその後、シャロンが登場しました。

 9 月末にシャロンがエルサレムの聖域に上ることによって、パレスチナ人の抵抗運動が劇化します。和平への絶望がパレスチナ人の戦いをエスカレートさせ、イスラエルの弾圧も熾烈をきわめました。

 イスラエルの中に住むパレスチナ・アラブ人も13 人が射殺されました。14 歳の少年が殺されたというので、私はガリラヤ地方に父親を訪ねました。父親は、どのようにして息子が殺されたか、オリーブの木の下で話してくれました。

 イスラエル兵や警察が村に押し寄せ、村の少年たちは投石しました。息子は間に立って、村人に投石をやめよう、挑発に乗るな、と叫びました。彼はアメリカの「平和の種」のキャンプで得た「非暴力的な解決」「対話による解決」を身を張って実践しようとしたのです。

 イスラエル兵が押し寄せ、村の男たちは逃げました。息子はオリーブ林の中に取り残されました。彼には逃げる理由がなかったのです。

 イスラエル兵は銃で彼の背中を殴り、少年は倒れました。すべては父親の目の前で起こりました。少年は「お父さん!」と叫びました。次の瞬間、イスラエル兵の銃口が火を吹きました。至近距離で実弾が発射され、少年は射殺されたのです。

 平和への対話の試みが崩壊した瞬間でした。

 ネベ・シャロームでも最近の戦争状態は、子どもたちの心に複雑なしこりを残しているようです。この学校では日本人の愛州さんという女性が働いていましたが、彼女は紛争地域の子どもたちの心のケアの問題を学ぼうとしてここに身をおいていました。しかしネベ・シャロームの子どもたちは、家に帰ると家庭やコミュニティで様々な影響を受けます。激しい衝突や自爆テロの後など、教室にも緊張が走ると、彼女は言います。

 対話だけでは対立は解消できないことを、「プロミス」も教えてくれます。2 年後に子どもたちを再びカメラが追った時には、出会いの可能性は消えていました。

 この映画はシャロンが首相になって、状況が最悪の事態へと突入する前に撮影されました。対話の試みのほとんどすべてが、その後に崩壊しました。

 「対話と理解」を信じてそれを実践した子どもたちがぶつかる壁と失望は大きなものです。一生それは残るでしょう。それに対して、大人たちは責任をとらなければなりません。そして次の事を知らなければなりません。

 それは対話を求める運動は、多くの場合、強者の側からなされるということです。弱者に対して現状を認めさせる強者の動き、既成事実化の動きと連動している場合が多いのです。それ以前には何があるか。弾圧や占領や差別があるのです。殺戮もあったりします。それは対話が始まらなくては解決できない問題なのでしょうか。それ以前の問題なのではないでしょうか。対話だけでは解決できない問題があるのですが、それの多くは対話以前に解決しなければならない問題なのです。占領の解決は、パレスチナ人が解決しようとしたら、抵抗運動になります。それは対話に敵対する動きです。占領は占領している側が終わらせなければならない問題なのです。

 1967 年の戦争は、対話不足のために起こったのではありません。和平は対話を必要とするが、対話だけではどうにもなりません。
どうしても占領が問題の発端であり、占領地からイスラエルが撤退することによってしか、和平が可能にならないということは事実なのです。

 占領に反対するパレスチナ人の抵抗は、投石による抵抗運動 (インティファーダ) を生み出しました。それは銃による抵抗にエスカレートしました。しかし占領は終わりませんでした。絶望したパレスチナ人は自爆攻撃を行うようになります。それは多くの場合、市民を対象としたテロになります。テロがユダヤ人に植え付けた不信と恐怖は大変なものでした。しかしイスラエルは、自分たちが「国家テロ」という形でパレスチナの人々にどれほどの恐怖と殺戮を行ったのか、見る視点をなくしてしまいました。12 歳のユダヤ人少女が自爆テロで殺されるのを嘆く人が、同じ 12 歳のパレスチナ人少女がイスラエルの爆撃によって殺されることに対して目をつぶるということが、まかりとおっています。そして占領が根本的な問題であることを考えることもできなくなっています。今の事態がイスラエルの占領によってもたらされたことを認識する心を失っています。

 それではどうすればいいのでしょうか。もっと爆弾で思い知らせることで、ユダヤ人が認識を始めるでしょうか。認識は始まりません。恐怖による撤退は、あるかも知れませんが。

 では現状をそのままにして今、両者の対話を呼びかけることが、問題の解決になるでしょうか。これは占領者と被占領者の対話なのです。「平和の種」のオルガナイザーや、「プロミス」の監督にもそうした認識はあると思いますが、映画では語られません。子どもたちが始めた「対話による理解」は挫折しました。「プロミス」は見る者に、その原因は何かと問うています。

 映画を見た後、もっと対話が必要だというような答えは答えにはなりません。そしてこの「対話の挫折」の後に見える世界は、占領者、富める者が、誰の犠牲で成り立っているのか、まったく「自分の姿を鏡に映してみないで」(チョムスキー)、暴力を欲しいままにしている世界です。

 かつて私たちが行った「パレスチナ人とユダヤ人の共存のためのシンポジウム」の共同宣言は、「占領者と被占領者の間に共存はあり得ない。まず占領状態を終わらせることが、共存の出発点」と述べています。

 これはユダヤ人とパレスチナ人の間だけで言えることではありません。不気味な 9 月の今だからこそ、日本の、そしてアメリカの姿に、この問題を重ねて考えることが必要だと思えるのです。


プロミス
http://www.uplink.co.jp/film/promises/top.html

BOX 東中野  http://www.mmjp.or.jp/BO


(以上広河隆一HIROPRESS#022より転載)

プロミスフィルムプロジェクト03−5489−0755

東京 BOX東中野 10月上旬まで連日10:45の回のみ上映 
 大阪シネ・ヌーヴォ8/31〜9/27 
 金沢シネモン9/21〜27  
新潟シネ・ウィンド9/21〜10/4  札幌シ
アターキノ10/5〜18  
名古屋シネマテーク10/5〜18  
神戸アサヒシネマ10/12〜25(予定) 
 長野 松本中劇シネサロン10/23〜27  
京都みなみ会館10/26〜11/8
  大分シネマ5 11/9〜15 
 福岡シネテリエ天神11/23〜12/6  愛媛シネマ・ル
ナティック 秋予定  岡山シネマ・クレール 秋予定  
川崎10/14 15:40のみ 
川崎市新百合トウェンティワン
インターネットでプロミスのサイト 

**** インフォメーション ****

映画 『プロミス』岐阜上映会場 岐阜市文化センター 小劇場
日時 2002年12月1日(日)
     17:00 開場 17:30 開演
     17:30 TALK LIVE(ゲスト:森沢典子)
     18:40 『プロミス』映画上映
     20:30 終了予定

チケット 当日:一般・学生 ¥1300  
         高校生 ¥1000
         小中学生 ¥ 800
     前売:  一 律 ¥1000での販売

◎尚、未就学児は無料ですが、三才未満のお子様のご入場に関しましては
 基本的にはお断り致します。

 前売券について
◎前売券の販売は10月20日よりEメール及び電話での販売予約を中心 に開始致します。
  予約先     tell 080-3016-0516
          mail ptmuto@yahoo.co.jp
 
 上記予約先に お名前、電話番号、希望チケット枚数を お伝えください。
 予約番号をお知らせしますので、その予約番号を当日に窓口でお伝えくださいますと前売料金でご入場いただけます。

http://www.uplink.co.jp/film/promises/top.html を開くと映像も出ますので是非ごらんください。

 
 
midi@par.odn.co.jp