■コラム
■ 家が壊される
 

みなさん、こんにちは。

冷たい雨が降り続いています。
先日お送りした通信に、たくさんのお返事をいただきました。
ありがとうございました。

ラファの状況が、日本で本当に伝えられていないことに、読まれた
方々がショックを受けていらして、私自身も衝撃を受けました。
そして、「知らなかった」と正直に伝えてくださる方、「大学の授業で
学生に配布します」とか「転送したよ」「コピーして友人に配りました」と
教えてくださる方、「何ができるでしょう?」と問う方などなど、とにかく
知ろう、受け止めよう、伝えよう・・・という力のある気持ちに
胸を揺さぶられました。

私自身がとても救われていることにも気がつきました。
感謝します。

それでも、今もラファへの攻撃が続いています。
この事態に対して、とうとう国連安保理も「非難決議」を可決しました。
普段はアメリカが拒否権を発動してしまうために、ことごとく通らなかった
イスラエルへの非難声明も、今回はアメリカが「棄権」(それでも「棄権」!)
の立場を取ったため採決されたのです。

けれどもイスラエル政府は、そんなことはお構いなしに、世界の人々の思いを
無視して、今もパレスチナ人の住む家を、中に人がいるまま破壊し続けています。
先日ご紹介した友人のムハンマドの電話にも、今夜はまだ一度も
つながりません。

下記は、ムハンマドの友人サーメドさん(ガザ在住)が、同じ18日に
彼に電話を入れたときの様子をレポートしたものです。
メールを受け取った役重善弘さんが訳してくださいました。
またその下は、ガザに住む友人がまとめてくれた現在(現地20日)の状況です。
さらに別便で、イスラエル人のギラ・シビルスキーさんから届いたメールも
お送りします。

*このメールは転送歓迎です。
*転載の際にはご一報ください。
*このメールが必要でない方はお知らせください。
*重複された方、ご容赦ください。
                            森沢典子

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包囲下ラファからの電話
                             B・サーメド
                            パレスチナ、ガザ
                            2004年5月19日

ガザ市:

それは、5月18日(火)の深夜12時になる直前だった。
ラファでもっともひどい攻撃にさらされている地区にいる友人のムハ
ンマドに連絡を取ろうとした。その前にも昼間から何度か連絡を取ろ
うとしていたのだが、うまく通じなかった。

ラファから伝えられるニュースは、タル・アッスルタン地区でパレスチナ人が
多数殺されていることを伝えており、いよいよひどく心配させるものとなっていた。

イスラエル軍は火曜日の午前中だけで14人の人々を殺害した。
地区内にいるジャーナリストは、負傷者たちが路上で血を流して死にかけており、
緊急の助けを求めていることを電話で伝えている。
しかし、イスラエルの狙撃兵が、路上に横たわっている死体や負傷者に近付く
ものは誰彼ともなく射撃し、救急車や自家用車による救出を妨げている。

私はますますムハンマドのことが心配になってきていた。
再び電話をしてみると、呼び出し音が鳴り、一分ぐらいしてようやく、低く沈んだ、
疲れ切った声が聞こえてきた。

ムハンマドは、彼の家が、いままさにイスラエル軍の軍事作戦の真っ只中に
あるのだと言った。「こう話している間にも、戦車は家のすぐ前にいるし、
アパッチヘリは上空から周囲の家々に銃撃している。僕ら家族は皆一つの部屋に
集まっていて、緊急の時以外は外に出ることができない。」両親と
7人の兄弟姉妹と一緒に暮らしているムハンマドはこう言った。

普段は軽快で明るいムハンマドは、彼の置かれたひどく危険な極限状況を反映した声で話した。
「僕らは周りを死で囲まれている。」彼は続けた。
「家の近くの路上には人の体が20以上は横たわっている。
そのうち何人かは死んでいて、他の者は血を流して瀕死の状態で救急
車を待っている。イスラエルの狙撃兵は一帯の高い建物をすべて占拠
し、動くものなら何でも撃っている。救急車や救急チームにも狙撃さ
れているんだ。」

彼はまた、一つの部屋に閉じこめられている状況についても説明してくれた。
「部屋から出るには、窓から見られないように這って進まなきゃならない。
大人は子どもが部屋から出ないようにしないといけないんだ。」
「最悪なのは、ミサイル攻撃や戦車からの砲撃があったときに子供たちが
泣きわめくことなんだ。家の目の前で戦車に乗っている兵士が恐ろしい音を
立てて重機関銃を3分間撃ち続けることを想像してみてくれ。
子供たちはそんなことに耐えることはできない。わけがなからない状態に
なってしまうんだ。」ムハンマドは彼の小さな弟や妹たちが晒されている
状況を具体的に伝えようした。彼は続けた。

「本当に悲劇的なのは、隣の部屋や通りから助けを求めて叫ぶ声が聞
こえるときだ。誰も彼らを助けるために外に出ることができないんだ。
僕らの近所のグネイム家では二人の子どもが死んだ。12歳の少年と
16歳の少女だ。二人とも、家の屋根に上ったところをすぐにイスラ
エルの狙撃兵によって撃たれた。二人とも出血して、助けを求めて叫
んでいたけど、兵士たちは断続的にあちこちに向かって発砲し続けて
いた。彼らの痛みに満ちた声が聞こえたけど、だれも助けに出ること
ができなかった。兵士たちはあらゆる方向に向かって銃撃を続けてい
た。二時間後、その姉弟は屋根の上で死んでしまった。」

電話回線が突然切れたので、またかけようとしたけれども、つながら
なくなっていた。

報道によると、その日(18日)、20人以上のパレスチナ人が殺され、
40人以上がけがをした。
多くのラファの住民が地元のラジオ局を通じて、救急車や医療チームが
破壊された地域に来ることができるよう、UNRWAや赤十字やコフィ・アナン
に対して懇願した。ラファの人々はタル・アッスルタン地区への攻撃に
軍事的に重要な目的などないことを知っている。

なぜなら、この地区は、イスラエルが武器密輸が行われていると主張している
国境に接していないからだ。それに、イスラエルの軍事基地や入植地は
この地区を直接見渡すこともできる。

ラファ市の指導者の一人は、この地域へのイスラエルの攻撃は
「“殺すことだけが目的”の殺人」だと言った。

ラファからの最新のニュースによると、イスラエル軍は住民たちに対
して家から出て近くの学校に行くことを要求している。しかし、パレ
スチナ側のラジオ局は従わないよう警告している。なぜならイスラエ
ル兵や狙撃兵は、実際に群衆の中から若い男性を狙い撃ちしているか
らだ。多くの死体がいまだに屋外で放置されたままになっている。

(訳・役重善弘)


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【タルエッスルターン地区】


タルエッスルターン地区は現在に至るまで包囲されたままです。
昨日ラファにいて、今はハンユニスに宿泊しているフリーランスのジャーナ
リストの方によると、昨晩はハンユニスまでタルエッスルターン地区方面か
らの爆発音がしばしば聞こえていたそうです。

その方は、昨日イスラエル側の戦車が抗議デモに対して砲撃したとき、デモ
の真ん中くらいにいたそうです。
(注・19日ラファで数千人の市民によるデモ行進の列に、イスラエル軍の
戦車が発砲、アパッチ・ヘリから数発のミサイルが撃ち込まれ、少なくとも
15人が死亡、50人以上が重軽傷。その後死者は増える見込み。)
人間に対して、戦車で砲撃してくるとは信じられない、と言っていました。

彼が現場を去るために乗ったタクシーも救急車がわりになり、重傷者を運ん
でいた、ということでした。
とにかくたくさんの怪我人がラファの唯一の病院、アッ・ナッジャール病院
に運ばれてきているようですが、もう病院のキャパをすでに超えているよう
です。
私はこの病院を訪ねたことがないのですが、友人いわく、あれは病院じゃな
いよ、クリニックだよ、でもこの緊急状況で、病院のように対応せざるを得
ないんだ、と言っていました。(そのためか、一応手術室なども設けられて
いるそうですが、病床数も少ないそうですし、きちんとした処置や治療を受
けるには、ハンユニスもしくはガザ市の病院に行かなければいけない状況で
す。)
毎日の記者が病院の模様を書いています。

「パレスチナ:イスラエル軍侵攻のラファ、封鎖…救急車動けず」(19日)

「パレスチナ:ラファ攻撃で子供ら10人死亡−−イスラエル軍釈明「群衆
狙ってない」」
(20日)


【ブラジル、サラーム地区】

また(おそらく昨晩)、タルエッスルターン地区(海、入植地側)とはラフ
ァの難民キャンプをはさんで反対側に位置するラファの町、ブラジル地区、
サラーム地区にも戦車が入ってきて、今もブラジル地区などにいるようです。
夜の間、武装ヘリが旋回し、通りを歩くものは上空から誰でも撃っていた、と聞きます。
また、イスラム聖戦(ジハード)幹部の家屋などを取り壊したようです。

【国連の物資倉庫】

国連(UNRWA)のラファの物資倉庫へのアクセスが現在、イスラエル軍によっ
て遮断され、スタッフも誰も入れない状態です。
現在UNRWAの学校二つに家を壊された人たちなど約500人くらいが
避難してきており、国連、国際赤十字やその他のNGOなどが協力して、
食料や水、その他の必需品などの人道物資を配給しているのですが、
現在そうした人道物資の動きが止められてしまっています。
非常に深刻な問題として、国連側がイスラエル軍と現在倉庫へのアクセスを交渉しています。

【ガザ市でのデモ】

昨日は幾つかのデモがガザ市で組織されました。
そのうちの一つには1,500人以上の人が国連の国連特別調停事務局
(UNSCO:ウンスコ)ガザ事務所前に集まり、国際社会へのアピールを呼びか
けました。
代表の"National Assembly for the Martyrs" と名乗る15人が、書面を渡す
という理由でUNSCO敷地内に入り、そのまま敷地内にてイスラエル軍がラファ
から撤退するまでのハンガーストライキを始めました。この15人は敷地外の
デモ参加者に冷静に行動するよう呼びかけ、群集はその晩家に帰り、この15
人はUNSCO敷地内にて現在もハンガーストライキを続けています。

▽ 学校に避難している400〜500人の人に地元ベーカリーとアレンジ
してパンを焼く手筈まではできていたのですが、倉庫のそばにイスラエル軍
の戦車tanksがいてパンを焼くための粉が手に入りません。UNRWA側では、学
校に避難している人のために、ガザ市から食料や毛布を運搬することにし
て、現在職員8人がラファに向かっています。水道が2日間断たれているタル
エッスルターン地区への水の配給も試みるようです。

▽ また、サラーム、ブラジル、ギニア地区にはまだ戦車とブルドーザーが
いて、銃撃などが続いているよう。(ブラジル地区あたりに女性フォトグラ
ファーの方と朝話した時は危なくて外に出られる状態ではない、と言ってい
ました。)
  このあたりの地区で7軒家が壊されたそうですが、人々に家を出る間も与
えないうちに取り壊し始めた、、、という情報も聞き、ますます心配です。

ほとんどの人が逃げれたけれども、3人怪我をしたとのこと。(イスラエル
軍は人が家にいるのに取り壊しをしているという情報を否認している、、と
も聞きました。)

▽ 先ほど、ラファ入りしていた毎日の記者の方とお話しました。今はラフ
ァのあちこちに戦車がいて、どこもかしこも危なく取材ができる状態ではな
い、ということでした。(なのでラファを引き上げることにしたそうで
す。)

▽ タルエッスルターン地区は、屋根に陣取っているイスラエル軍のスナイ
パーが窓から顔をだしたり、窓のそばをうごく人を誰でも撃っている、とも
聞きます。同地区の友人(ムハンマド)は家族とともに一部屋にこもり、ど
うしても動かなければいけないときは、床を這って移動しているそうです。
  電気がきれて、携帯電話のバッテリーがチャージできないだろう、と思う
と、彼や彼の家族の安否確認のために電話を頻繁にするのもためらわれる状
態です。が、短い電話を先ほどして、うまくいけばUNRWAが水をとどけられる
かもしれない、と伝えました。彼の声は非常に疲れきっていました。
  また、同地区から2遺体と重傷者二人が運び出されたそうです。
 
(注・先ほど彼女から追加の情報が入り、人々が非難している学校までは
水を届けることができたが、ムハンマドたちがいるタルエッスルターン地区までは
UNRWAも、他の国際人道団体も、一切近づくことはできず、水は届けることが
できなかったそうです。森沢)
▽ ラファ出身の同僚の姉妹二人の嫁ぎ先の家も壊され、現在はラファのま
だ比較的安全な場所にある彼の実家に避難してきているということでした。
この状況では、避難先があればまだいいほうのかもしれません。

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(1)UNRWAのガザ地区地図
http://www.un.org/unrwa/publications/pdf/gaza_map.pdf

緑色が難民キャンプ、
灰色がもともとあるパレスチナ人の居住地区、
はプロジェクトと呼ばれている地区で、過去イスラエル軍によって道路の
拡張や治安上などの理由で家を破壊された人たちが移された地域
(ラファの場合、タルエッスルターン横のカナダ地区や、またラファ・タウン隣接の
ブラジル地区と呼ばれているところ、ハンユニスはアマル地区、ビーチキャン
プの場合はシェイクラドワン地区、など)
濃いオレンジは入植地、また黄色および薄オレンジ色
イスラエルのコントロールエリア

(2)OCHA(国連人道調整事務局)のラファの状況地図

(3)ハアレツの社説
online Ha'aretz editorial (21 May 2004)
"Pointless destruction"


(4)パレスチナレポートからの記事
(ラファ市長サイード・ズロブ氏とのインタービュー)
Ghost town
on May 19, 2004.

(5)日本語で読めるパレスチナの情報
http://palestine-heiwa.org

(6)ナブルス通信(続々と最新情報をレポートしてくれています)
http://www.onweb.to/palestine/

 
midi@par.odn.co.jp